Case04
<Dさんのケース>
会議名称 :職場環境の改善会議
参加メンバー:カスタマー対応部門のチームリーダーとその若手社員6名
所要時間 :90分
ITシステムの会社でカスタマー対応部門のチームリーダーをしています。私のチームは、不規則な勤務体系や突然のクレーム対応に追われ、若手メンバーの離職が続いているので、チームメンバーたちと職場環境の改善について話し合うことにしました。しかしながら、肝心のメンバーたちが話し合いに興味を示さず、そうこうしているうちに今月も一人辞めそうという噂もあります。
優秀な人材をいくら採用しても定着せず、新しい人に毎回引継ぎを行う余裕も無いので、どうにか離職を食い止めたいです。
離職が止まらないカスタマー対応部門
進め方のポイント
①離職を止めたいのは「会社の都合であり、社員の側に立った考えではない」という前提を共有した上で、それでもこの会社に所属している間は少しでもお互いにとって価値や意味、働き甲斐のある職場にしたい、という想いを共有する
②社内のタブーに少しでも切り込んでいけるように、議論が停滞した際に立ち戻れるような、起点となる理想の未来を共有する
③メンバー各自がこの会社で何を選択するのかを決められる機会をつくる
SOUNDカード™の基本動作
カードを並べて選ぶ
選んだカードについて話す
ミーティングの流れ
会議が開催される背景や目的・ねらいを共有する
趣旨説明
(5分)
クレーム対応や離職といった深刻な事態に対処するための職場改善では、下手にオブラートに包まず「今ここにある危機」をはっきりと提示することが有効です。職場に問題があるとしてではなく、リーダー自らの力不足を素直に謝罪した上で、危機を乗り越えるために力を貸してほしいと、率直な想いを語ることが重要です。
今の正直な気持ちを一言ずつ話す
チェックイン
(5分)
冒頭で「今ここにある危機」と率直な想いをリーダーが語れば語るほど、緊張感が高まるものの、前向きに取り組もうとする人が何割か現れます。そのわずかな前向きさが場の中で自然に生まれ共有されていくには、ネガティブな気持ちも含めて語り合える働きかけが重要です。「こんなことをしている場合ではない」という気持ちを抱えている人たちがその気持ちを正直に話せることで、「そこまで追い込まれているからこそ力を合わせよう」と意味づけができるきっかけをつくります。
Step00
Agenda
(5分)
会議のアジェンダ(議題)を決める
職場が危機的状況であればあるほど、表面的なアジェンダは白々しさを生み、リーダーへの信頼を無くして、会議自体の諦めを深めやすくなります。「ここは起死回生を狙えるような大胆かつタブーに切り込むアジェンダにしよう」と、リーダー自らがメンバーの言いにくいことを率先して口火を切るように、働きかけていくことが重要です。
Step01
Status
(10分)
問題の見える化と安全な場をつくる
表面的な話し合いが続くと、問題解決の芽をつんでしまう可能性があります。まずは自分たちが遭遇している問題や気がかりに加え、不満・不安、タブー・諦めも含めて、全て棚卸をするように働きかけます。棚卸した内容は、付箋紙などで一覧化し、「なんでも可能だとしたら特にどれを解決したいか?」や「この中で3つしか取り組めないとしたら、特にどの領域を取り組みたいか?」などといった、問題の認識が深まるような問いかけをします。
Step02
Outcome
(15分)
実現したいビジョンをつくり出す
棚卸で見えてきた根深い問題に対して、議論が平行線や上滑りになり、「問題ばかり話しても埒が明かない」という感覚をメンバー全員が抱くまで話し合います。現実の厳しさからの、未来を描くこと自体の抵抗を緩めたところで「改めて自分たちはどんな未来を描きたいのか」を考えるように促します。
Step03
Understand
(20分)
改善の肝となるねらい目を見極める
自分たちが遭遇する「重要かつ緊急」な問題は、何が原因で生まれているのか、因果関係をメンバー全員で分析します。重要度と緊急度による「時間管理マトリクス」に当てはめて、重要かつ緊急な問題を増やしているのは、どの領域の課題を先送りしてしまっているのか、無駄なことをしていないか等を話し合い、「選択と集中」を合言葉にどの課題に集中して対応するか、ねらい目の合意形成を図ります。
Step04
Negative Check
(10分)
改善の妨げになる要素を洗い出す
職場のひっ迫状態によっては、ここまでで定めたねらい目となる課題に対応できない可能性があります。具体的にどんな足かせとなる要因があるのかを認識しつつ、足かせがあまりにも重くどうにもできない場合は、ねらい目自体を見直し、「完璧でなくてもいいので少しでも前進することに意味がある施策は何か」を話し合えるように働きかけます。
Step05
Drive
(15分)
実際のアクションを選定し実行する
ここまでの話し合いで順調だったとしても、実際のアクションを決める段階で尻込みする可能性があります。一人一人が向き合っている状況がひっ迫していればいるほど、これ以上の責任を負えない感覚になってもおかしくないので、リーダー自身が泥をかぶる、貧乏くじを引き受ける姿勢を示すことで、メンバーの「それでも、もう一歩」の気持ちを沸き立たせるよう働きかけます。
チェックアウト
(5分)
会議の振り返りとハーベストを共有する
一人一人が大変な状況の中で、この取り組みに関わってもらえているメンバーの率直な気持ちの共有は、それ自体が財産になります。ひっ迫した状況での前向きなコメントは他の人が触発される可能性があり、一方でもやもやした気持ちを打ち明けてくれたメンバーは、個別に話し合いの場を設けるきっかけとなります。
高度な専門チームの特徴
1.問題を抱え込みやすい業務構造
一般的に課題の複雑性と問題の緊急性が高まっていることから、メンバー個々人の暗黙知に頼らざるを得ない状況に陥りやすくなっています。本人しか知らない・できないことが多くなるので、メンバーがトラブルに遭遇しても、助けを求めることができず、加えて周囲のメンバーも「自分は協力しようにも役に立たないだろう」と自己正当化による様子見になりやすく、孤立化したメンバーは問題をますます抱え込みやすくなります。
チームリーダーは、孤立化しているメンバーのフラストレーションに真っすぐ向き合い、とにかく受け止めるようにします。その上で、全ての事象に対応できなくてもそのメンバーを助けるようにリーダーとして改善を約束し、メンバーからはリーダーが自分の味方であると思ってもらえるように働きかけることが重要です。
2.職場意識の薄まりと売り手市場による転職志向
Dさんのケースのように、チームメンバーがシステムエンジニアのような高度な専門性を持っている場合は、職場環境を良くしようとするよりも、もっと好条件の会社へ転職することに意識が向きやすくなります。なぜなら、企業のテレワーク導入やDX対応が進んでいることで、システムエンジニアが慢性的に不足しており、売り手市場で今よりも好条件な会社を比較的見つけやすいからです。加えて在宅ワークの広まりやチームよりも個人で行う業務が多いことから、会社に属しているという感覚が薄れ、個人の待遇面に意識が向きやすくなっています。
チームリーダーが離職防止をメンバーと話し合う際は、「離職を止めたいのは会社の都合であって、社員の側に立った考えではない」ことを正直に打ち明けた上で、それでもこの会社に所属している間は少しでもお互いにとって価値や意味の仕事ができ、働き甲斐のある職場にしたい、という想いを共有することで、メンバーから力を貸してもらう姿勢と、想いを沸き立たせるように働きかけることが必要です。
3.人手不足で後回しになる改善活動